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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3555号 判決 1972年11月21日

原告

茂山恵美子こと梁正善

ほか四名

被告

第三近通工事株式会社

主文

被告は、

原告梁正善に対し、金一〇四、六六三円

原告孫和久に対し、金二〇九、三二八円

原告孫栄美に対し、金一〇四、六六三円

原告孫英春に対し、金二〇九、三二八円

原告孫美沙緒に対し、金一〇四、六六三円

及びこれらに対する昭和四六年八月八日から、各支払ずみまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

原告らその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの、その余を被告の負担とする。

この判決は原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

被告は、

原告正善に対し、一〇〇万円

原告和久に対し、二〇〇万円

原告栄美に対し、一〇〇万円

原告英春に対し、二〇〇万円

原告美沙緒に対し、一〇〇万円

及びこれらに対し、昭和四六年八月八日(訴状送達の翌日)から各支払ずみまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

訴外茂山勇こと孫昌華は、次の交通事故により死亡した。

(一)  日時 昭和四六年三月一六日午後一〇時一〇分ごろ

(二)  場所 大阪市北区中之島二丁目二五番地先交差点

(三)  加害車 小型貨物自動車(大阪四四に四九六七号)

右運転者 訴外吉井清次(西から南)

(四)  被害車 普通乗用自動車

右運転者 孫昌華(東から西)

(五)  態様 直進中の被害車右側面に、右折しようとした事故車が衝突した。

(六)  傷害 右大腿骨折、右肘頭部、前頭部各挫創、全身麻酔手術の止むなきに至り急性心不全により昭和四六年三月二三日午後五時三〇分死亡。

(七)  身分関係 原告正善は妻(七分の一)同和久は長男、同英春は三男(各七分の二)、同栄美は長女、同美沙緒は次女(各七分の一)で、右の割合で亡昌華の権利を承継した。

二  責任原因

運行供用者責任

被告は、加害車を業務用に使用し自己のため運行の用に供していた。

三  損害

(一)  治療費 二九四、三〇〇円

(二)  入院雑費 二、四〇〇円

一日三〇〇円の割合による八日分

(三)  逸失利益 一四、二六三、一八二円

職業 タクシー運転手

収入 年収一、二七五、五三一円

生活費 二二八、〇〇〇円

昭和四三年全国世帯平均家計調査報告による。

就労可能年数 二〇年(係数一三、六一六)

死亡時四三才、平均余命二九・九一才

(四)  慰藉料 四、〇〇〇、〇〇〇円

(五)  葬祭費 二〇〇、〇〇〇円

(六)  弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円

四  よつて、原告らは右合計一九、二五九、八八二円のうち請求の趣旨の通り合計七、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四六年八月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁と主張

一  請求原因一項(一)乃至(四)は認める。(五)は争う。(六)死亡の事実は認めるがその余は争う。

同二項は認める。同三項は争う。

二  事故の態様

本件事故は加害車が右折のため方向指示器で合図をして一旦停止し、信号が青になるのをまつて時速約五乃至六キロで徐行右折開始した途端、被害車が時速約九〇キロでセンターラインを少しオーバーして進行して来て加害車前部右角に前部右角を激突させ、加害車はこのはずみで半回転して西向になつて停止し、被害車は交差点西南角の電柱に車体後部左側を激突して停止したものである。

訴外吉井は法規に従つて運転しており何人の過失もない。しかるに、訴外孫は交差点における徐行義務に違反し、右折車があることを知りながらこれを無視し制限速度を五〇キロもこえる時速九〇キロの猛スピードで交差点に進入したもので、この過失が本件事故の原因である。

三  訴外孫の死亡原因は医師の過誤によるもので本件事故と相当因果関係はない。

仮に被告に責任があるとしても、死亡に至るまでの損害に対してであり、その余は本件事故と相当因果関係外の損害である。

四  被告は原告らの代理人(正善の妹の夫である藤原定太郎)と示談し、二一〇万円支払つている。

原告らは自賠責保険から五、三一六、三〇〇円の支払を受けている。

第四原告らの答弁と主張

一  訴外孫の死亡につき医師の過失があつたとしても被告と医師が連帯乃至不真正連帯責任を負担すればよいのであつて、被告の主張の如く、一方的に医師の過失によるものではないことは明かである。

二  示談成立の抗弁は争う。訴外藤原定太郎には請求権放棄についての代理権まではなかつた。

原告らが自賠責保険から五、三一六、三〇〇円を受領した事実は認めるしかし右は本件全損害から損益相殺されるべきであるところ、本訴は右を差引済の上で内金請求しているものである。

証拠〔略〕

理由

一  請求原因一項(一)乃至(四)は当事者間に争いない。

二  本件事故の態様、過失相殺

本件事故現場は東西に通じる幅員約一三・六米(東行車線六・六米、西行車線七米)の道路(北側には幅員約五・五米の河川敷駐車場があり、南側には幅員約二米の歩道が設けられている)とこれに南から幅員約七・二米の北行一方交通の道路と幅員約六米の南行一方通行の道路とが直交している交通整理の行われていない丁字型交差点であるが、訴外吉井は加害車を時速約三〇キロで右東西に通じる道路を西から東に右折の合図をしながら中央線よりを南に右折できる個所を探しながら進行中、右、南から北に通じる北行一方通行規制されている道路の延長線手前までさしかかり停止したところ、同所は車両進入禁止となつておりその東側道路は中央分離帯をはさんで北から南への一方通行道路であることが判明したので、発進して中央分離帯まで進行して西行車両の有無に注意することなくハンドルを右に切つて時速約一〇キロで右折中央線をこえた際、折から東西に通じる道路を中央線よりに時速約八三・五キロで西進中の被害車右前部に自車右前部を衝突させて被害車を回転させ、歩道上の電柱に同車左後部を衝突させた。

(〔証拠略〕)してみると、本件事故は訴外吉井の安全不確認の過失と、訴外孫の前方不注意、速度違反の過失が競合して発生したものと言うべく、その過失割合は諸般の事情を総合して前者八に対し後者二と認めるを相当とする。

三  請求原因二項は当事者間に争いない。

被告は右の限度で損害賠償の義務がある。

四  訴外孫昌華は本件事故により、前頭部挫創、右肘部挫創、右大腿部挫傷、右大腿骨骨折、左眼瞼部挫創の傷害を受け、手島外科病院に入院したが、昭和四六年三月二三日午後五時三〇分頃、右大腿骨骨折の全身麻酔手術中急性心不全をおこして死亡した。

ところで、同人は心臓に動脈硬化症性心疾患(心臓の約一倍半大の肥大、中等度の心冠動脈硬化、心筋の細動脈周囲性線維症、同水様変性)があり、肝臓に著明の肝硬変(著明脂肪性、栄養性肝硬変)があり脾臓にも慢性うつ血脾(類洞壁瀰満性線維症)の疾患があり、更に肺部に慢性細気管支炎の疾患があり又本件傷害により出血多量によるかなりの貧血状態であつたため、麻酔及び手術の侵襲に対する抵抗力が無くなり結果急性心不全を起したものと認められる。

尤も、同人が左無気肺を起していることからして麻酔に際しての医師の不手際を推認できないではないが、本件事故との因果関係を失うものではないと言うべきで、被告は同人が死亡したことによる損害をも賠償すべき義務あるものと解さざるを得ない。(〔証拠略〕)

五  被告主張の示談成立の抗弁はこれを認めるに足る証拠はない。

六  損害

(一)  治療費 二九三、三〇〇円

(乙一号証)

(二)  入院雑費 二、四〇〇円

一日三〇〇円の割合による八日分を損害として認める。

(三)  逸失利益 五、六〇二、九八二円

職業 タクシー運転手

収入 年収一、二七五、五三一円

但し、生活費その他を三分の一と認める。

就労可能年数 八年(ホフマン係数六・五八九)

亡昌華は昭和二年五月二六日生で当時、四三才一〇ケ月と認められるが、同人には前記認定の如き持病が認められるので、平均余命までは生存可能であつたとしても就労可能年数は健康者と同一には考えられない。同人の労働可能年数は通常人の約二分の一の八年と認めるを相当とする。(〔証拠略〕)

計算式別表一

(四)  慰藉料 四、〇〇〇、〇〇〇円

傷害の部位、程度、治療の経過、家族構成、その他諸般の事情を総合して慰藉料は右金額をもつて相当と認める。

(五)  葬儀費用 二〇〇、〇〇〇円

(弁論の全趣旨)

(六)  弁護士費用

原告和久、同英春各二〇、〇〇〇円、その余の原告各一〇、〇〇〇円

右をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(七)  損害の填補 七、四一六、三〇〇円

被告から 二、一〇〇、〇〇〇円

自賠責保険から 五、三一六、三〇〇円

(当事者間に争いない)

七  身分関係

原告正善は妻、同和久は長男、同栄美は長女、同英春は三男、同美沙緒は次女で、次男洙益は昭和二七年四月二二日、満二才で死亡している。〔証拠略〕

韓国民法によれば、妻と直系卑属が遺産相続する場合は女子は男子の二分の一とされているから、原告和久、同英春は各七分の二、その余の原告らは各七分の一の相続分を有することになる。

八  してみると、被告は別表二のとおり、原告和久、同英春に対し各二〇九、三二八円、その余の原告らに対し一〇四、六六三円及びこれらに対する昭和四六年八月八日(訴状送達の翌日)から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。よつて、原告らの請求は右認定の限度でこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納一郎)

別表

1 1,275,531円×2/3×7.278=5,602,982円

2 弁護士費用を除く損害総額 10,098,682円

上記の八割 8,078,945円

損害填補額 7,416,300円

差額 662,645円

上記の2/7(原告和久、同英春) 189,328円

上記の1/7(その余の原告ら) 94,663円

以上に弁護士費用を加えると

原告和久、同英春 209,328円

その余の原告ら 104,663円

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